長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 整形外科学教室
教授 尾崎 誠
平成23年9月1日付けで、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・医療科学専攻展開医療科学講座・構造病態整形外科学教授を拝命いたしました。
当整形外科教室は1954年に開講しましたが、開講58年目で5代目の整形外科教授になります。
さて、整形外科は運動器の疾患を扱う診療科であり、脊椎と脊髄を扱う「脊椎外科」、上肢を扱う「手の外科」と「肩関節外科」、下肢の「股関節外科」、「膝関節外科」と「足の外科」、スポーツによるけがや障害を扱う「スポーツ医学」、リウマチや膠原病を扱う「リウマチ外科」、腫瘍を扱う「骨・軟部腫瘍外科」、骨粗鬆症などを扱う「骨代謝外来」と多数の専門分野があります。また、高齢者から運動器の先天異常をもつ新生児まで幅広い年齢層を対象とします。整形外科の疾病は、日常生活の動作に必要な運動器の機能を障害するものであり、運動療法や薬物療法などの保存的治療、手術療法などの外科的治療により、より高いレベルの機能回復を目指しています。
2011年の平均寿命(WHO)は女性約86才、男性約80才と日本人は世界一の長寿を手に入れましたが、健康寿命は最後の6~8年までで、以降何らかの介護や介助が必要となります。国民の意識の変化もあり、この健康寿命をいかに延ばすかが今後の課題です。国内には約1,000万人の骨粗鬆症患者と、レントゲン像から統計学的に推定される1,000~3,000万人の変形性関節症患者が存在すると予想されています。関節症や骨折、転倒など整形外科疾患は要介護の原因のうち20%、要支援の原因のうち28%を占めており、今後日本人が長寿の恩恵を甘受するためにも整形外科の果たすべき役割は重要です。また、最近の調査では整形外科単科での国内の入院外来を合わせた患者数は年間約2,000万人であり、内科の年間約4,300万人の約半数、外科の年間約1,000万人の約2倍と単独の科としては非常に需要が多いことが分かります。一方、整形外科医の医師数は、内科医の30%程度で外科医よりも少なく明らかにマンパワーが不足しています。今後さらに高齢化に伴う人口構成の変化が超高齢化社会をもたらし、それに伴う需要の増加が予想されています。
近年ますますその重要性が増している整形外科ですが、近代の系統的な整形外科学はフランスのアンブロワーズ・パレ(1510-1590)に起源を発するといわれています。パレの著書であるパレ外科全集には現在でも用いられている肩関節脱臼や股関節脱臼の整復方法や、シーネ固定に関する具体的な絵図も記載されています。日本には17世紀に入ってオランダ語に訳されたパレ外科全集が伝えられ、その内容は、奇しくもここ長崎で、楢林鎮山(1648-1711)の手で「紅夷外科宗伝」(関連ページ)として日本語に訳され紹介されました。紅夷外科宗伝は長崎大学附属図書館医学分館に所蔵され公開されています。
現在の長崎大学整形外科教室は、開講58年目で同門は416名を数えます。1954年8月1日に永井三郎教授が初代教授として着任され開講しました。着任当初は関節結核や脊椎カリエスといった骨関節結核や骨腫瘍、関節拘縮に対す授動術に関する臨床研究および基礎研究を行ってきました。1971年2月より鈴木良平教授が着任され、当時としては最先端である歩行のバイオメカニクス解析に関する研究を行い、国内外で注目される研究成果を上げました。臨床においては小児における発達性股関節脱臼の治療装具であるリーメンビューゲル装具を一早く国内に導入され、長崎でその脱臼整復理論を完成させました。現在でもリーメンビューゲル装具は小児における発達性股関節脱臼の治療のファーストチョイスとして使用されています。また、鈴木教授は足の外科に精通するとともに、足変形の病態生理の解明などの基礎研究に貢献し世界足の外科学会長を務められました。1988年11月より岩崎勝郎教授が就任され、これまでの臨床および基礎研究を引き継ぐとともに、専門分野である股関節外科の分野、特に成人股関節においては骨切り術や人工股関節手術を積極的に行い、小児股関節においてはペルテス病や発達性股関節脱臼の治療で国内の臨床をリードしてきました。高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた大腿骨頭壊死症の発症機序の研究では高い評価を得ており、基礎医学教室との連携のもと、骨・軟骨代謝、腫瘍医学、病理学といった分野での分子生物学的手法を用いた新たな研究も開始しました。1997年10月より進藤裕幸教授が就任され、より臨床に直結した研究テーマとして、成人股関節を中心にアジア向けの人工関節の開発や3次元有限要素法による生体力学的研究、分子生物学的手法を用いた骨・軟骨代謝研究や骨髄脂肪研究、高血圧自然発症ラットを用いた大腿骨頭壊死症研究、バイオフィルム研究、骨微細構造の画像解析、骨粗鬆症や変形性関節症の疫学研究、スポーツ障害予防プロジェクトなど様々な分野の研究を行ってきました。国内外の最先端の研究および臨床施設への留学も積極的に推進し、臨床の各分野の診療技術の向上に伴い長崎大学整形外科の手術件数は年間960例(約1,200件)と約10年間で3倍以上に増加し、26関連病院における手術の総件数も年間1万5千例を越えています。
長崎はこれまで整形外科学を含め日本の医学の入り口であり、長崎から新しい医療を全国に発信してきました。長崎大学整形外科教室は今後も長崎から国内外に最先端の研究、教育、医療を発信していきたいと考えています。
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